高齢者の貧血は非常に多いのですが、自覚症状から気づきにくいため発見が遅れがちです。病気が潜んでいることもあるため、まずは高齢者に起こりやすい貧血の原因と症状を理解しましょう。
貧血と言えば若い女性がなるイメージがありますが、高齢者にも非常に多く存在しており、65歳以上で1割程度、85歳以上になると2割程度が貧血とされています。ただし、若い女性と高齢者では原因に大きな違いがあります。
一般的に貧血(鉄欠乏性貧血)の原因は食事による鉄分の摂取不足や月経過多などによる出血であるため、若い女性に多く存在します。しかし、高齢者になると血液をつくる造血機能自体が低下することで起こります。
造血にはさまざまな要因が関わりあっており、高齢者の貧血の原因としては、老化による骨髄内の造血幹細胞の機能低下のほか、造血を促すエリスロポエチンと呼ばれるホルモンの分泌低下、赤血球の産生を促す男性ホルモン(アンドロゲン)の分泌低下が挙げられます。
男性が貧血になりにくいのはこの男性ホルモンのおかげですが、高齢になると男性ホルモンの分泌量が減少するため、高齢者では基準に男女差がなくなります。
そのため、貧血の基準として用いられるヘモグロビン濃度も、男性が13.0g/dL以下、女性が12.0g/dL以下であるのに対し、高齢者では男女差がなくなって11.0g/dL以下が基準として用いられます。
また、高齢者では造血機能の低下だけでなく、病気による慢性的な出血や、薬剤の服用によっても貧血が起こるため、原因は幅広く疑う必要があります。
貧血の症状といえば、めまいや動悸、倦怠感などがあげられます。しかし、高齢者の場合は体の老化によってこのような症状が日常的に起こりやすくなるため、仮に貧血の症状が起こっていたとしても歳のせいにされがちです。これが発見を遅らせる原因となります。
高齢者の貧血には消化管出血などの病気が関係していることが多いため、早めに気づくことは病気の早期発見にもつながります。特に消化管出血は癌が原因となるケースが多いため、日頃から貧血の有無を意識することが大切です。
早期に発見するためには、定期的な血液検査が必須となります。上記のように自覚症状ではわかりにくいのですが、血液検査を行えば血液の状態が一目瞭然となり、その陰に潜む病気の早期発見にもつながります。
貧血の原因と言えば鉄分の摂取不足や、女性の過多月経などによる慢性的な出血が挙げられます。逆に男性は貧血になりにくいため、男性がなった場合は真っ先に「消化管出血」を疑います。
高齢者の場合、造血に関係する臓器の老化によるものもありますが、なんらかの病気が原因となっている場合も多々あります。代表的なものに、胃潰瘍や消化器系癌による出血、造血を担う骨髄の障害、腎障害による造血ホルモンの低下などが挙げられます。
消化管出血による貧血
なかでも注意すべきは消化管からの出血で、高齢者の貧血の約3割程度に癌が関係しているというデータもあります。胃潰瘍も進行すると潰瘍部分から出血を起こしますが、現在は胃潰瘍の治療薬の研究が進んでいるため、薬を適切に服用すれば大きな出血に至る事はありません。
消化管内の出血は便の色を見る事で確認することができます。胃や十二指腸で出血している場合は、血液が胃酸や消化酵素と反応して黒く変色するため、便の色はコールタール、または海苔の佃煮にような黒い便となります。
一方、大腸や肛門付近で出血している場合は血液の色が変わらず便と混ざって出てくるため、赤褐色や鮮紅色の便となります。消化器系疾患を早期発見するためにも、日頃から便の色に注意を払い、気になることがあれば速やかに病院を受診するようにしましょう。
骨髄の障害による貧血
高齢者になると様々な臓器の機能が低下していきますが、血液をつくる骨髄も例外ではなく、赤血球などの血球をつくる機能が低下することで貧血になりやすくなります。
また、高齢者で特筆すべきは骨髄異型性症候群(MDS)という病気です。骨髄異形成症候群とは造血幹細胞自体に異常が起こり、造血細胞の増殖・成熟がうまく進まず、赤血球・白血球・血小板のいずれもが減少する病気です。
一般に成人から高齢者に多く見られますが、近年では男性の高齢者に増えており、1998年度の調査では全国の患者数は7100人と推定され、特に70歳代がピークになっています。
発症すると、息切れや動悸、全身倦怠感といった症状が出てきますが、症状がゆっくりと進行するために、貧血を自覚する事があまりありません。
多くの場合、健康診断などで貧血と診断されたり、白血球減少による肺炎などの感染症や、血小板減少による抜歯後の止血困難などの出血症状をきっかけに、骨髄異形成症候群である事が判明します。
腎障害による貧血
腎臓の機能が低下すると貧血になるという事はあまり知られていませんが、貧血は腎不全の代表的な症状の1つです。腎臓は血液中の老廃物をろ過して尿をつくる働きがよく知られていますが、赤血球の産生を助けるエリスロポエチンというホルモンも分泌しています。
そのため、腎機能が低下するとエリスロポエチンの分泌量も低下し、赤血球の産生が少なくなるために貧血となります。これを腎性貧血といい、人工透析を行う腎不全患者に多く見られます。
現在はエリスロポエチンを人工的に合成した薬剤が開発されているため、適切に投与すれば腎性貧血を改善することができます。高齢になるほど腎機能も低下していきますので、高齢者では腎機能の低下も貧血の原因として疑う必要があります。
高齢者が多く服用している薬剤によって貧血が引き起こされる場合もあります。これは薬剤が直接貧血を起こすのではなく、薬剤の副作用によって出血が起こり、その結果として貧血が起こりやすくなります。
代表的な例として、鎮痛剤による胃潰瘍が挙げられます。高齢者には腰や膝関節の痛みを抱えている人が大変多くいます。膝関節の場合は関節部の軟骨がすり減った状態で動くため、炎症が起こることで痛みを伴います。根本的な治療法は人工関節置換手術を受けるしかなく、多くの場合で鎮痛剤の服用による緩和治療を行っているのが現状です。
鎮痛剤にもさまざまな種類がありますが、胃潰瘍の発症リスクとして問題になるのが非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)です。このNSAIDにはロキソニンやバファリンなどの一般的な鎮痛剤が含まれます。
このNSAIDは痛みの原因となるプロスタグランジンの働きを抑えることで痛みを抑えるのですが、プロスタグランジンには胃粘液の分泌を促進して胃粘膜を保護する役割もあるため、プロスタグランジンの働きを抑えることで胃粘膜がダメージを受けやすくなります。
一過性の頭痛などで服用するくらいであれば問題ありませんが、関節リウマチや変形性関節炎などの痛みに対して長期間服用を続けると、約15%の患者に胃潰瘍が認められるという報告があります。
このほか、血液を固まりにくくするワーファリン(ワルファリン)も出血の原因となることがあります。ワーファリンは血栓の発生を防ぎ、脳梗塞などの予防に用いられる薬剤ですが、逆を言えば消化管に傷がついてしまった時に出血が止まりにくくなるというリスクがあります。
ワーファリンの投与量は厳密に管理されていますが、消化管からの出血が認められた場合には投与をやめたり、ワーファリンの働きを中和するビタミンKを点滴するなどの対応が必要となります。
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