妊娠をすると母体だけでなく胎児にも栄養と酸素を与え続けなければならず、それだけ多くの血液が必要となります。母体は自らの造血機能をフル回転させ、その必要となる血液を造り続けます。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」によると、一日当たりの鉄の摂取基準は月経のない女性で6〜6.5mg、妊娠初期で+2.5mg、中期・後期で+15mg、授乳期で+2.5mgとされています。
また妊娠中は胎盤への血液供給、胎児への栄養、酸素供給、分娩時の大量出血に備えるため、血液量は最大36%増加します(妊娠34週目が最大)。その内訳としては血漿量が最大47%増加し、赤血球量は17%増加します。
赤血球を増やすことは大変ですが、血漿は容易に増やすことができるため、血液の循環量を増やすために血漿のほうが増加するのですが、その分血液中に占める赤血球の割合が低下してしまいます。
つまり血液が薄くなるということで、その分酸素の運搬能力が低くなり、結果として貧血が起こりやすい状態となります。
妊娠中は鉄の需要が増大するにもかかわらず、「つわり」で食欲がなくなるなど、鉄不足に陥りやすくなります。つわりは妊娠4〜6週から始まり、7〜9週に辛さのピークを迎えますが、その時期は赤ちゃんの臓器形成にも大事な時期で鉄を必要としています。
つまり、赤ちゃんにとって大事な時期に、思うように食事から鉄分を摂取できないという事になります。その結果、体内に蓄えられていた鉄が底をつき、貧血になってしまいます。
妊娠初期は1〜15週ですが、赤ちゃんの臓器が形成されるのは妊娠8〜11週であるため、妊娠に気が付いた時にはすでに大事な時期が過ぎてしまっていることもあります。
鉄剤による貧血の改善効果は最低でも1〜2ヵ月後であるため、妊娠前から貧血の女性の場合、妊娠に気づいてから慌てて鉄分を摂取しても、赤ちゃんの大事な時期に間に合わなくなる恐れがあります。
さらに妊娠中期以降は、胎児の急速な発育に伴って鉄の需要が大きく増えるため、鉄分の摂取を非常に意識しなければなりません。日本では妊婦の3割以上が貧血だというデータもあります。
貧血は母体にも胎児にも悪い影響を及ぼします。かつて妊婦の貧血は流産や早産の誘因となったり、分娩時の陣痛が弱くなるなどの問題が指摘されていました。
さらに胎児への鉄の供給が十分にできないと、胎児の発育が遅れ、生まれてきた赤ちゃん自身が貧血になる恐れもあります。
ただし、最近は妊娠検診が確実に実施されるようになり、そこで発見されれば速やかに鉄剤による治療を行うことができるので、以前のような問題は少なくなっています。しかし、貧血が起きやすい事に変わりはないので、妊娠中は注意する必要があります。
鉄剤は吐き気を催すこともあり、つわりでただでさえ辛い時期に服用するのは難しい場合もあります。しかし、妊娠中に適切に鉄剤を服用することで、早産や低出生体重児のリスク軽減につながることがわかっています。
妊娠時鉄欠乏性貧血における適切な食事指導に関する基礎的検討 日本看護研究学会 妊産婦の食生活に関する検討 日本看護科学会 妊婦貧血と栄養学的対策について 妊娠貧血とその治療 |
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