貧血の大部分の原因は、赤血球をつくるために必要な鉄分やビタミンの不足によるものです。不足している栄養を補えば改善が期待できますが、ひたすら鉄分を摂ればよい訳ではありません。食事で貧血を改善するポイントとは?
貧血にはさまざまな種類があり、その原因も多様にありますが、大部分の貧血は赤血球を造る際に欠かせない鉄やビタミンB12などの栄養が欠乏する事で起こっているといっても過言ではありません。
つまり、貧血は一部のものを除いていわば一種の栄養障害であり、貧血を予防する上で毎日の食事が重要になってきます。
かつて栄養状態がよくなかった時代は子供の4人に1人が貧血といわれていましたが、高度経済成長期以降は食生活が豊かになるにつれて貧血が確実に減少しました。
ところが、1990年あたりを境に再び貧血になる人が増えてきました。この飽食の時代において貧血がまた増加する事は、食生活の変化が原因であることを意味しています。
私たちが日々摂取している食事から摂る事のできる鉄分量は、1000kcalあたり5〜6mg程度とされています。私たちが一日当たりに必要な鉄分量は、厚生労働省が出している「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に示されています(下表参照)。
鉄の食事摂取基準(mg/日)推奨量
年齢 | 男性 | 女性 | |
---|---|---|---|
月経なし | 月経あり | ||
15〜17歳 | 9.5 | 7.0 | 10.5 |
18〜29歳 | 7.0 | 6.0 | 10.5 |
30〜49歳 | 7.5 | 6.5 | 10.5 |
50〜69歳 | 7.5 | 6.5 | 10.5 |
70歳以上 | 7.0 | 6.0 | ― |
妊娠初期 | ― | 推奨量+2.5 | ― |
妊娠中期・後期 | ― | 推奨量+15 | ― |
授乳期 | ― | 推奨量+2.5 | ― |
これによると、若い女性は一日当たり10.5mgの鉄が必要とされており、それを食事で補うためには一日当たり2000kcal分の食事を摂取する必要があります。近年は健康やダイエットのためにカロリーを制限する傾向にあり、それに伴って鉄分の摂取量も減少しているのが現状です。
貧血を改善する食生活では、食事量を減らしたとしても、鉄分や鉄の吸収を助ける栄養素の摂取量を減らさないことがポイントとなります。
食生活が貧しい時代は「レバーやひじきで鉄分を摂らないと貧血になる」ということを意識し、食生活の中で気を遣っていました。
ところが飽食の時代になると、栄養状態が不足していると感じることもなくなり、その事が偏食へとつながっていきました。また女性のダイエット意識も栄養不足に拍車をかけています。
人間の体は鉄が吸収されにくい仕組みになっており、鉄の吸収率はたったの10%ほどです。1日に体から排泄される鉄量はおよそ1mgですが、それを補うためには10mgも摂らなければなりません。特に生理のある女性は慢性的に鉄が不足しやすく、必要量は2mg多い12mgになります。
これだけの鉄を普段の食事から摂取する事は難しく、ダイエットや偏食をした場合はたちまち鉄不足に陥ります。よって、生理のある女性は普段から意識して鉄分を多く含む食物を摂るよう心掛ける必要があります。
食品に含まれている鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、肉や魚にはヘム鉄が、野菜や海藻には非ヘム鉄が含まれています。ヘム鉄は二価鉄という形をとっており、溶けやすくイオン化しやすいのが特徴です。一方、非ヘム鉄は三価鉄という形をとっており、消化管から吸収されにく構造をしています。
そのため、消化管からの吸収率はヘム鉄が10〜20%であるのに対し、非ヘム鉄は1〜6%であり、鉄分の吸収に数倍の差があります。つまり、鉄分を効率よく摂取するには、ヘム鉄を多く含む肉や魚を摂取することが大切です。
日本人の食生活ではヘム鉄よりも非ヘム鉄を多く摂っている傾向があります。せっかく摂った非ヘム鉄を効率よく吸収するには、ビタミンCやタンパク質を多く含む食品を一緒に摂る必要があります。
貧血を改善するために鉄分を摂取しなければならない事は有名ですが、他にも血液を造るために必要な栄養素として、ビタミンB12、葉酸、ビタミンB6があります。
1999年8月に発表された「日本人の栄養所要量」の第6次改定では、従来の食事摂取基準にビタミンB12や葉酸など17の栄養素が追加されました。
この栄養所要量というのは欠乏症を防ぐ観点から設けられた必要量のことで、食事摂取基準に新たに加えられた栄養素は、今までは不足する心配がそれほどなかったのに、現在の食生活では不足する可能性が高くなった事を示唆しています。
偏った食生活にならないよう、それぞれの食品に含まれている栄養素を意識して、造血ビタミンB群を効率よく摂るようにしましょう。
ビタミンB12は「赤いビタミン」とも呼ばれており、欠乏すると悪性貧血を引き起こしてしまいます。ビタミンB12はレバーなどの肉類、卵、牛乳などに多く含まれており、これらの食品を普通に摂っていればビタミンB12が欠乏する事はほとんどありません。
葉酸が不足すると葉酸欠乏性貧血になります。葉酸はビタミンB群の1つで、レバーや貝類、キャベツやパセリ、ニンジン、トマトなどの野菜類、バナナやメロンなどの果物類に多く含まれています。ビタミンB12同様、これらの食品が毎日のメニューに入っていれば、まず不足することはありません。
ビタミンB6はヘモグロビンを造る時に欠かせない栄養素です。ほうれん草、ピーナッツ、大豆、バナナなどに含まれています。これらの造血に欠かせないビタミンB群は鉄のように欠乏する事はそう多くはありませんが、過度の偏食が長年続くなどの栄養障害をきっかけに不足することはあります。
鉄欠乏性貧血を改善するためには、鉄分を積極的に摂取することが大切です。しかし、がんばって鉄分を摂取していても、鉄分の吸収を阻害する成分を一緒に摂取しているとすれば、せっかくの努力が無駄になってしまいます。
鉄分の吸収を阻害することを知らず、無意識に摂取していることが貧血の原因になっていることもありますので、まずは鉄分の吸収を阻害する成分があるということを知っておきましょう。
鉄分の吸収を阻害する成分の代表的なものに、カフェインやタンニン、シュウ酸があります。カフェインとタンニンはコーヒーや緑茶、紅茶に多く含まれており、腸管からの鉄分の吸収を阻害します。
鉄分の吸収を阻害するからといって、コーヒーや緑茶を飲んではいけない訳ではありません。食事中に飲んでしまうと食品中の鉄分の吸収を妨げてしまうため、食後30分〜1時間経ってから飲むようにすると影響を抑えることができます。
シュウ酸は植物の苦みや渋みの成分であり、鉄分が多いほうれん草にも多く含まれています。シュウ酸は水溶性であるため、茹でる事でシュウ酸が水に溶け出し、吸収阻害の影響を抑えることができます。
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