生理という定期的な出血によって、女性は体内から鉄分を失っています。そのため、女性の1割を占める鉄欠乏性貧血の主原因が生理によるものといっても過言でありません。では貧血にならないためにはどうしたらよいのでしょうか?
貧血の患者の7割を占めるのが鉄欠乏性貧血ですが、その原因のほとんどは継続的な出血によるものです。
これには胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの病気がありますが、生理もいわば継続的な出血であるので、女性はそれだけ貧血になりやすい状態であるといえます。成人女性の約1割が鉄欠乏性貧血の状態にあるのもそのためです。
生理による出血量が正常範囲内であり、食生活で不足する鉄分をきちんと摂取できていれば問題はありませんが、生理による出血量には個人差があり、出血量が多い過多月経の場合は重度の貧血になることもあります。
過多月経の原因として、子宮筋腫や子宮内膜症が挙げられます。いずれも近年患者数が増加傾向にあるため、生理による出血量が多かったり、生理がなかなか終わらないと感じた場合は、速やかに婦人科を受診するようにしましょう。
子宮筋腫とは子宮内の筋層や粘膜下に腫瘍ができる病気です。腫瘍と言っても良性の腫瘍であるため、子宮筋腫で命を落とすことはありません。子宮筋腫の症状には過多月経と月経痛があります。
子宮筋腫は中高年の女性に多く発症し、35〜50歳の女性が全体の8割を占めています。子宮筋腫は婦人病の中でもありふれた病気であり、成人女性全体の2〜3割が罹患していると考えられています。
子宮筋腫は腫瘍の発生する場所によって症状の現れ方が異なります。子宮筋腫の7割を占めるのが、子宮の筋層内にできる腫瘍です。筋層内に腫瘍ができると子宮の形が変形し、子宮内膜の剥離面積が大きくなるため、生理時の出血量も増加します。
一方、子宮内膜症とは子宮内膜に似た組織が子宮以外の場所にできてしまう病気です。卵巣や卵管にできることが多く、腸管や膀胱にできることも稀にあります。
この子宮内膜に似た組織の問題点は、生理に合わせて出血するということです。通常、生理は子宮内膜が剥がれる事で出血しますが、剥がれる内膜の面積が増加したことになるので、その分出血量も多くなります。
子宮筋腫も子宮内膜症も、エストロゲンなどの女性ホルモンの影響を受けて増殖するため、閉経すると病状は改善します。しかし、いずれの病気も貧血だけでなく、不妊症の原因となるため、気になる症状がある方は婦人科を受診するようにしましょう。
私たちの体は汗や尿、腸管から少しずつ鉄分を排泄しており、その量は1日で約1mgとされています。つまり、1日あたり1mgの鉄を摂取すれば収支のバランスがとれることになります。
しかし、私たちの体は平均10%程度しか鉄を吸収できないため、必要量の10倍となる10mgの鉄分を毎日食品から摂取する必要があります。
一般的には1日に必要な摂取カロリー量のバランスのとれた食事を摂ると、平均10mgの鉄分が摂取されるため、無意識に鉄のバランスがとれていることになります。しかし、生理のように出血で鉄が失われている場合には、失った分だけ余計に鉄を摂る必要があります。
鉄欠乏性貧血はなりやすい貧血である反面、必要な鉄分をしっかり摂れば治りやすい貧血でもあります。
生理は女性の宿命的なものでもありますが、「貧血になるのは仕方ない」と諦めることはありません。生理によって失われる鉄分量を知り、失ってしまう分をきちんと食事や鉄剤で補う事ができれば貧血になることはありません。では、生理で毎月失われている鉄分はどれくらいなのでしょうか?
生理では月平均で45mLの出血があるとされています。つまり1日平均にすると1.5mLの血液が失われている事になり、鉄量に換算すると0.75mgになります。つまり、毎日0.75mgの鉄を余分に摂取できれば貧血にならないことになります。
人は毎日1mgの鉄を汗や尿から失っているため、この1mgに出血分の0.75mgを足すと、1日に失われる鉄分量は1.75mgとなります。
ただし、前述のとおり私たちの体は平均10%程度しか鉄を食物から吸収できないため、1.75mgの10倍となる17.5mgの鉄量が1日あたりの必要摂取量となります。
なお、これは平均的な必要量であるため、過多月経などで出血量が多い場合や体質などによっては、より多くの鉄が必要となります。
生理による出血を考慮しなければ、通常の食生活で鉄の収支バランスはとれています。しかし、出血で失われた鉄を余計に摂るには、食生活を見直さない限り鉄不足に陥ってしまいます。この不足している分を食生活の工夫や鉄剤で補う事で、鉄欠乏性貧血は克服する事ができます。
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