溶血性貧血は赤血球がなんらかの原因で壊されていく病気であり、一般的な貧血のように鉄分を補充して治るものではありません。しかし、原因を特定し、適切な治療を受ければ症状を改善することができます。
溶血性貧血とは赤血球の寿命が短くなり、体内を循環する赤血球量が少なくなることで起きる貧血です。貧血の発生頻度としては鉄欠乏性貧血よりずっと低く、日本ではそう多くない貧血といえます。
正常な赤血球はおよそ120日の寿命があり、最終的には脾臓で破壊され、その鉄分は新しい赤血球の産生に再利用されます。
しかし、その寿命が10日くらいに短くなったり、血管や組織内で赤血球が破壊され、体内の赤血球数が減少すると貧血が起こります。
私たちの体は何らかの原因で赤血球が減少すると、それを補おうとして赤血球の増産体制に入ります。赤血球の増産能力は通常時の6〜8倍まで上げることができるため、溶血の程度が軽い場合はカバーすることができますが、溶血がひどく造血能力を上回ると赤血球の損失を補いきれず貧血になってしまいます。
溶血性貧血と一言でいっても、その原因によってたくさんの種類がありますが、大きく分類すると遺伝的に生まれ持って赤血球自体に問題がある先天性(内因性)と、赤血球自体は正常で破壊を亢進するような要因が加わる後天性(外因性)の二つがあります。
先天性の場合は赤血球自体に問題があり、赤血球の形が奇形であるために脾臓で破壊されてしまいます。後天性では赤血球に対する自己抗体が体内でできてしまい、それによって赤血球が破壊されてしまう自己免疫性溶血性貧血が過半数を占めており、ウイルス感染や薬剤使用が原因になることもあります。
最も多いのは後天性の自己免疫性溶血性貧血であり、1年間に数百人が罹患していると推定されています。
治療方針はこの分類によって異なり、赤血球を破壊してしまう原因を取り除くことが治療の目的となります。
先天性の溶血性貧血には、赤血球の膜に異常がある球状赤血球症、楕円赤血球症、ヘモグロビン異常による鎌状赤血球症などがあります。通常の赤血球は中央部が薄くくぼんだ円盤状をしているために変形しやすく、直径7μmほどの毛細血管でも通り抜けることができます。
しかし赤血球が円盤状でなくなると変形しにくくなり、毛細血管で詰まってしまいます。一番引っかかるのが脾臓の毛細血管で、そこで詰まると古い赤血球と判断されマクロファージによって破壊され溶血が起こるのです。
治療としては貧血の軽い人はそのまま様子を見ますが、貧血や黄疸がひどい場合のみ、赤血球を壊す臓器である脾臓を手術により摘出します。脾臓の摘出によって貧血は改善し、黄疸は減少します。
後天性の溶血性貧血には、剣道やマラソンなどの運動によって起こるもの、やけどや蛇の毒によるもの、自己免疫性溶血性貧血などがあります。
後天性で最も多いのは自己免疫性によるものです。これは免疫機構の異常によるもので、自分の赤血球に対して自らが抗体を造って攻撃を加え、赤血球を壊していく病気です。この抗体の事を自己抗体といいます。
抗体は本来細菌などから身体を守るためにつくられる免疫機能ですが、なんらかの原因で自分に対しての抗体をつくり攻撃してしまうのが自己免疫疾患となります。
原因不明の本態性のものと、悪性リンパ腫や白血病などの疾患に伴って起こる二次性とに分類され、治療は副腎皮質ステロイド投与が一般的です。多くの場合で溶血が治まり貧血も改善されますが、ステロイドが効かない場合は脾臓摘出や免疫抑制剤投与を行います。
運動による溶血性貧血は、長時間のマラソンなど足の裏への強い衝撃が反復して加わる運動を続けていると起こる事があります。
これには個人差がありますが、たまたま足底の毛細血管が足裏の骨の下にあたっているような人は、踏みつけによって足底の血管に衝撃が加わり続け、その圧力によって赤血球が破壊されてしまうのです。
素足で勢いよく踏み込む剣道の選手や走る事を日課にしているジョギング愛好家などに発症する事が知られています。
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